「なあ。」
隣の席で机に突っ伏してだらだらしていたアホ犬が間の抜けた声を挙げた。
「何だ?出来たのか?」
しつこく泣きつかれて宿題の数学を教えてやっている最中だった。
「いや、まだだけどさぁ…。それよりお前、何で眼鏡してんの?」
「お前は…!人がせっかく勉強を見てやっているのに、そんなどうでもいいことを考えていたのか!!」
「視力制御のためっていうのは分かるけど、勿体無くねぇ?せっかく男にしておくには勿体無いくらいキレーな顔してんのに。」
「この方が都合がいいんだよ。日常生活送る程度なら2.0もあれば充分だし、表情読み取られることもないからな。」
「何?表情読まれたら不都合なことでもあんの?」
しまった。墓穴を掘った。だがこれも、アホ犬が俺に警戒心を持たせるほどのレベルにいたってないからだろう。
「内面をやすやすと読まれるほど俺は馬鹿じゃない。」
「じゃあさ、お前、どういう時に眼鏡外すの?」
「貴様には関係ない。」
「ちぇっ。連れないなあチバちゃん。風呂入る時とか寝る時とか?」しつこい。
「こういう時だよ。」
あまりにうるさいので少しだまらせてやろうと思っただけだ。
深い意味などない。
あのうっとうしい低脳じみた金髪の前髪を掴むと唇を押し付けた。
「邪魔になるからな。」
そう言って参考書に向き直る。
「千庭ぁ。」
日鳥が肩にあのうっとおしい髪型の頭を乗せてくる。「かえって集中出来なくなった。」
アホ犬がそう間抜けな声でつぶやいた。