羅夢様からの頂き物SSです♪♪♪

 

 

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 『内緒』

 

 

「日鳥くん、その手、どうしたの?」

初老の警視監は不思議そうに尋ねた。
実の息子同様に可愛がっている隊員の手に、何やら火傷のような跡と刃物の切り傷を見つけたからだ。
忍務中に付いた傷ではないだろう。
最近火の気のあるところで戦ったことはないし、刃物の傷にしたって、思い切りきりつけられたようなものではない。刀身の小さな、ごく軽いナイフで付いたような浅い傷だ。火傷にしろ切り傷にしろ程度が軽い。手にしか集中していないのも妙だった。
「ああ、これ?何でもない。オッサンは心配性だなあ。」
日鳥凱はそれだけ答えた。
「そう?ならいいけど、怪我には気をつけなきゃ駄目だよー。君になにかあったら立井君が悲しむから。僕だって悲しい。」

深く追求する必要はないと思え、冗談交じりにそう返した。

 

 


 

「日鳥くん、良かったら、今度の週末釣りにでも行かないかい?」
週末はいい天気らしい。ここ最近はお互いに忍務、忍務で忙しく、ろくに話も出来ていなかった。このあたりで一つ、息抜きがてらどこかに連れて行ってやってもいい。
山奥育ちで自然の好きな彼だ。きっと喜ぶだろうと思った。
が、その申し出に日鳥は一瞬考えたような顔つきになる。
「……行かない。」
「どうして?何か用事でもあったかい?」
「駄目ったら駄目なの!!」

それだけ声高に叫ぶとさっさと走り去ってしまった。
以前ならオッサンオッサンと何でも話してくれていた。
「付き合い、悪くなったなぁ。」


 

 

 

「出ないなぁ、日鳥くん。」
ケータイの待ち受け画面を眺めながら、思わず溜息を付いた。
画面の中には自分と日鳥と2人で撮った画像が映っている。
日鳥が初めてケータイを持った時、記念に撮ったものだった。
ようやく悩んでいた電気も自在にコントロール出来るようになって、念願のマイケータイを持ち始め喜んでいた。
よほど嬉しいらしく些細な内容でも頻繁にメールをくれていたし、ほんの1時間前別れたばかりという時ですら電話が掛かってきたりしていた。
それがここ最近はさっぱり音沙汰がない。
可愛い息子代わりとの釣りが諦めきれず、他に都合のいい日を交渉したかった。
もう一度だけ。もう夜も遅いし、今度駄目だったらあきらめよう。
そう思って最後のコールをする。

「オッサン?どうしたの?」
声の調子が苛立っていた。
「いや、特に用事はないんだけどねー。さっきの釣りの話なんだけど、今週が駄目なら、他に都合のいい日教えてくれないかなぁ。」
「悪いけど、今それどころじゃねぇんだ。急ぎじゃないなら、またにしてくんねぇ?」
言い方に棘がある。普段の日鳥なら考えられなかった。
「……何かあったのかい?君にしては珍しく苛立っているね。」
「俺だって、色々あるんだよ。」

それだけ告げると日鳥は電話を一方的に切ってしまった。

 

 


6月とはいえ、夜分遅くになると少々肌寒い。
昨日のことがあってか、今日は少々日鳥と話し合いたくて、彼のアパートへと向かっていた。
いくら強いといってもまだ子供だ。自分が気付かないうちに忍務について悩んでいたかもしれない。特区隊の活動に限らず、学校や友人に関して何か悩んでいるのかもしれない。自分でよければ救いの手を差し伸べたかった。
アパートの階段を上り、廊下を曲がり、日鳥の部屋のドアが見えた。
その時だった。目当てのドアが空き、部屋の主とその恋人が姿を表した。

「それじゃ私、帰るね。」
「おう、悪ぃな。こんな遅くまで付き合わせて。」
「ううん、平気よ。私でも役に立てるなら嬉しいし。」
縫の笑顔に、日鳥の頬が少し赤く染まり、口元が嬉しそうにほころぶ。
次の瞬間には日鳥が首を傾け前屈みになり、未来の嫁に軽く口づけを贈るのが見えた。
ありゃ、ちょっとまずい時に来ちゃったなぁ。
今日は帰ることにした。
「それじゃあゆっくり休んでね。おやすみなさい。」
縫が踵を返し、こちらへと歩んできたので、気付かれないうちにと駆け足で階段を降りていく。
もし鉢合わせでもしたら、きっと見られたと察して嫌な思いをするだろう。
それにしても、時間は10時過ぎ。
(日鳥くん、こんな遅くまで立井くんを引きとめていたのかぁ……。)
これからの様子次第では少し注意をしなければと心に決めた。

 

 


 

 

「原くんー。」
熱心にPCを打つ背中にそう声を掛ける。
「まだ高校生のカップルがさ、夜遅くまで一緒に居なきゃいけない事由って何があると思う?」
「はい?」
「実は昨日さー、10時頃日鳥くんの家に行ったら、立井くんが出てくるところ、見ちゃったんだよねぇ。」
「はぁ。」
「制服のままだからさ、家に戻ってないと思うんだ。遅くまで何してたんだろう。いくらくのいちとはいっても女の子だからね。あんまり良くないと思うんだ。こっちは大切なお嬢さんお預かりしてるわけだし。」
「…えーと、それは、その。」
好青年の頬がほのかに赤く染まり、しどろもどろな受け答えとなった。
「まぁ2人ともお年頃ですからねえ。でも、僕から見ていまどき珍しいくらいの純愛カップルだし、そうそう変なことにはならないと思いますよ。千庭君の目も光ってますからね。試験勉強か何かじゃないですか。」
良き兄貴分らしくフォローが入る。
「うん……。」
「僕も駄目だなぁ。頭ではそういう年頃なんだとか、いつまでも僕が最優先される存在で居られるわけじゃないと分かっているのに、いざこうなると寂しくてねぇ。」
吐き出したタバコの煙がまるでため息のようだった。
「ヒナ鳥だヒナ鳥だと思っていても、いつのまにか大きくなってしまうものなんだなあ。」
「それこそ警視監の育て方が良かったからでしょう。いつまでもすねかじりじゃかえって困ります。…でも不思議ですね。」
原が言う。
「立井さん、遅くなる前に自主的に帰りそうな気がしませんか?親御さんを心配させるようなことはしなさそうなのに。」

そう言われてみればそうだった。

 

 


 

日曜日の朝は晴れていた。
心に抱えるもやもやがなかったら、さぞ気持ちのいい目覚めだったに違いない。
一人では釣りに行く気もしなかった。
朝食を摂って顔を洗い、服を着替え新聞に目を通し、庭の手入れをし、正午を過ぎたことに気付いた時、“それ”は来た。
デカデカデカ♪
ケータイが着信音を鳴らす。
「杖承さん!!」
電話の主は原だった。
「今、時間は大丈夫ですか?」
声の調子から焦りと緊迫が伝わる。
「うん、大丈夫だけど、どうしたの?」
釣りに行く予定が潰れていたため、時間はあり余っていた。
「日鳥くん達が大変なんです!!すぐ特区隊室に来てください!!」
それだけ告げると電話は切れた。

何があったんだ。

ここ最近日鳥の様子がおかしかったせいもあり、不安ですぐに駆けつける。

 

 

 

「どうした原君!?」
ドアを開けたその瞬間だった。

パン!パンパン!

乾いた音が周囲に響き渡り、火薬の匂いが立ち込めた。

 
「な、何だあ〜?」
思わず間抜けな声が上がる。
一瞬の間をおいて、ふと自分が紙テープまみれなことに気付く。

?????????

特区隊員達が自分に向けて中身の殻になったクラッカーを手にしていた。
さっきの音の正体はこれらしい。
「おじさま、これ。」
縫が大きな花束を抱えていた。
「私達からのささやかなプレゼントです。どうぞ。」
「あ、ああ。ありがとう。でもみんな、どうしたんだい?」
「嫌だわおじ様ったら。今日は父の日です。」
あ……と気付く。
「おじ様は私達、ううん特区隊にとって父親のような存在ですもの。でも良かったわ、花束がお似合いで。千庭くんにセンスのいい花屋さん紹介してもらって、初老の素敵な紳士に似合うものでって、お願いしたんです。」
「余計なことは言わなくていい。」
眼鏡の奥の瞳に浮かんだ若干のテレを隠すかのように千庭が釘を刺す。
パチパチという拍手の渦が巻き起こり隊員達の顔に笑顔がこぼれる。
千庭と深船の2人だけは相変わらず無愛想に仏頂面ではあったが。
「オッサン、父の日、おめでとうー!!」
それが不可解であったらしく、深船と千庭が毒づいた。
「?おめでとう???」
「ふん、誕生日じゃあるまいし。」
縫が困ったようにくすくすと笑う。
「オッサン、見て、これ。」
テーブルクロスが敷かれた机の上にはやや不恰好なご馳走の数々が所狭しと並んで居た。
「縫に料理教わってたの。俺、覚え悪ぃし、不器用だからいつも遅くまで時間掛かっちゃってたけど。手の傷とか火傷でバレやしねえかヒヤヒヤしてたぜ。この前なんかローストビーフの焼き加減見てる時に電話掛かって来るしさあ。」
「そうだったのかー。」
良かった。自分はまだ必要とされていた。
今まで味わったことがないほどの喜びと安堵感が込み上げてくる。
「原君も人が悪いなぁ。すっかり騙されちゃったよー。」
「いや、僕も一昨日まで本当に知らなかったんですよ。昨日日鳥くんから計画打ち明けられて、協力させてもらったんです。杖承さんは僕にとっても父親みたいな存在ですから。」
「あら?おじ様泣いてます?」
縫が気付く。
「うん、何だかクラッカーの煙が目に染みてねぇ。」
「何だよそれ!素直じゃねえなあ。」
日鳥が不満そうに口を尖らせる。

 

……僕にだって、君達は実の子供のように大切な宝物だよ。

心の底からそう思った。

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『オマケ』

…何だ?これは。」

日鳥が持ってきた不可解な物体を前にして尋ねる。
「前に見たホラー映画に出てきた焼死体の一部がこんな感じだったぞ。」
深船が言った。
「ロ・オ・ス・ト・ビ・イ・フ!!」
不機嫌そうに日鳥が叫んだ。
怒りたいのはこんなもの押し付けられたこちらの方だ。
「これが?ほとんど火が通っているではないか。」
「ローストビーフというより、出来そこないのチャーシューと言った方がいいな。」
「何だよ、お前ら。俺と縫だけじゃ食いきれないからせっかく持ってきてやったのに。」
日鳥は口を尖らせた。
「味は悪くないのよ。」
縫がそうフォローを入れる。
「はい、これがタレ。これに付けて食べてね。」
縫が人数分の小皿にタレを注ぐ。
「これも日鳥くんの調合。ちょっとスパイシーなの。私の味付けより男の子向きの味だと思う。」
「この大馬鹿と俺の味覚が似てるわけがないだろう。」
千庭が毒づく。
「まあ食べ物を無駄にするほど堕ちた覚えはないからな。」
千庭と深船がしぶしぶと切り分けられた肉片を口に運ぶ。
「あ!美味しい。コーラとか炭酸系の飲み物欲しくなるね。」
林が素直に誉めた。
「そうだな。これだったらビールの方が合う。」
深船がぽろりともらした。
え?
一同が驚いた顔を浮かべる。
続いて深船が自分の失言に気付いた。
「いや、例えばの話だ。それより、千庭!お前こそ、よく凱の料理なんか食うな。普段立井の差し入れには絶対手をつけないくせに。」
どうやら話をはぐらかしたいらしい。
「ふん、この大馬鹿には、一服盛るなんて知性ないだろうからな。」
歳は下でもやはり千庭の方が一枚上手のようだった。

 

「大好評だったね。」
皿を片付けながら、縫が日鳥に声を掛ける。
「どこがだ。」
千庭がそう責める。
「でも全部食べてくれたわ。」
「残す理由がなかったからだ。」
「でも千庭くん、本当に嫌いな人が作ったものだったり、美味しくないもの、わざわざ食べるなんて能率の悪いことする人じゃないでしょう?」

縫の指摘に千庭がぐっと言葉を詰まらせる。
千庭の辛口も甘ちゃんな縫には余り効き目がないらしい。

 

  

 

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羅夢様より頂きました父の日によせてのSSです。
いつも素敵な作品を寄せて下さって下さってありがとうございます♪
羅夢サマ、有難うございました♪

2007-06-26

 

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