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 『七 夕』

 

 

 

「どうした?それは?」

日鳥が持ってきた小さな笹の枝を見て、冷ややかにそう尋ねた。
まあこれからこの大馬鹿が言い出しそうなことは軽く予想が付くが。
「ん?何って、七夕飾り作ろうと思って。千庭も一緒に作ろうぜっ!!」

何でも杖承さんがこの大馬鹿のために、知り合いの能楽師に頼んで、自慢の庭園に生えている笹を一枝もらってきてくれたらしい。
それでこの大馬鹿は杖承さんの心遣いが嬉しかったらしく大喜びしているらしいが、お前がいつまでもそうやって子供染みているから、杖承さんがそう気を使ってくれてるんだ。早く気づけ。

「ふん、小学生じゃあるまいし。断る。」
この大馬鹿の遊びに付き合う義理はないのでそう断り、いつもどおりかばんから参考書を取り出し膝の上に置く。
余った時間は最大限有効に活用するのが人間だ。
この大馬鹿には解らないだろうが。
「んな冷たいこと言うなよー。千庭も作ろうぜ。お前手先器用そうだし、短冊に願い事とか書いてさー。」
なら俺の願いはこの大馬鹿がもっと賢く役立つ人間になることだ。
これは織姫や彦星ではなく、日鳥に願うことだろう。
「しつこい。声をかけるならあのくのいちにでも掛けろ。言っておくが、杖承さんや原さんは誘うなよ。」
「ちぇっ、じゃあいいよ。俺一人で作るから。そんかわり、すっっっっっげえ立派なの作って、びっくりさせてやるからな。後で驚くなよ。」

そう子供染みた捨て台詞を吐いて、日鳥は机の上に折り紙や厚紙、セロテープやハサミを広げはじめた。

準備が始まると鼻歌を歌いながら折り紙をいじり始めた。
カサカサガサガサと耳障りな音が響く。
しばらくしたら今度はジョキジョキというハサミの音が始まった。
不愉快極まりない。
しばらく我慢することにした。
数分後、下準備が終わったらしく、今度は紙片をいじり始めた。
この大馬鹿も集中を始めたらしい。これで少しは静かになるだろう。
だが、それが甘かった。
「うぉっ、やべぇっ!!」「あ、失敗した!!」などといちいち叫ぶ。
机の上を散らかして作業をしているせいか、わざとかと疑いたくなるくらい手をあちこちにぶつけ、文具類や笹を床に落としてはゴトンガチャンバサバサと大きな音を立てる。
終いには「えーっと、あの仙台七夕みてーなビラビラしたの、どう作るんだろ?」などと独り言を言い始めた。

しょうがない。

 

「ふん、貴様という男は本当に仕方がないな。」
我慢の限界が来たので、椅子から立ち上がり、日鳥の傍へ歩み寄る。
「チバちゃん?」
日鳥が不思議そうに首をかしげた。
「うるさくて仕方ない。集中できん。特別に手伝ってやる。」

「お前、やっぱ器用なんだなあ。」
日鳥がだらしなく椅子にの背もたれに頬杖を着きながらそうつぶやく。
「お前が不器用過ぎるんだ。」

言いながらふと幼い頃を思い出した。
子供の時も、母と二人でこうして七夕の飾りつけをしたことがあった。
「いわ君、上手上手。」そう褒めてもらえることも、母が喜んでくれていることも嬉しかった。



日鳥より大分効率的に、日鳥が作ったものよりも大分難易度も見た目の完成度も高い飾りを数種類あらかた作り終え、日鳥の希望どおりに吹流しを作り始めた。
最初俺が何を作り出したのかわかっていなかったらしいが、作業の中盤が過ぎるとようやく気づいたらしく、目を輝かせて叫んだ。
「あ、それ、俺が作りたかった仙台七夕のびらびらしたヤツ!!千庭、お前、すげえなあ!!何、実はお前も七夕飾り作るの好きだったりする?可愛いとこあるじゃねーか。」
「ふん、くだらん。子供の頃幼稚園や小学校の図工の授業で覚えたのを忘れていないだけだ。お前とは記憶力のよさが違う。」
「ちぇっ、なぁんだ。やっぱり可愛くねーの。」
この大馬鹿に可愛いなどと思ってもらう必要はない。

「よし。ほとんどの飾りは作り終わったな。後は縫が来たら糸で縫い付けてもらって吊るそうぜ。とりあえず短冊でも書くか。」日鳥はなぜか俺に同意を求めた。
「それはお前一人でやれ。そこまで付き合ってられん。」
そういってまた参考書に向き直る。
「頭固ぇなあ。現実主義者め。じゃいいよ、俺が全部書くから。あ、オッサンと原ちゃんと縫の分は残しておかねーとな。」
日鳥がすねた。

 

数十分も経ったろうか。妙に静かだと気づいた。紙の上にペンを滑らせる音すらしない。……?
不思議に思って振り向くと、大馬鹿がペンを握ったまま、机に突っ伏して眠っていた。
しょうがないヤツだ。ペン先が乾くだろうが。仕方ないからキャップを閉めなおしてやろうと思い立ち上がって歩み寄る。
手から抜き取ったペンにキャップをし、机の上に広げられた色とりどりの短冊にふと視線を落す。

 

 

「オッサンがいつまでも元気でいますように」
「原ちゃんにいいお嫁さんが見つかりますように」
「縫が認証試験と入隊試験に受かりますように」

いかにもこの大馬鹿が考えそうなことが書いてある。

 

他にもあった。

 

「悪忍のいない世の中になりますように。」
「電気がちゃんとコントロール出来る忍者になれますように。」
「身長、あと10センチ高くなりてえ!!」
「限定モデルのブーツが欲しい!!」
「ディズニーランドに遊びに行きたい!!」
「いっぺん飛行機に乗ってみてえ!!」

 

願いごとがどんどん退化している。

 

「千庭が少しは優しくなりますように」
ふん、余計なお世話だ。

 

「千庭が縫を苛めるのやめてくれますように。もっと優しくしてやれ!!」
しつこいぞ。

 

 

そして日鳥の左手の下に収まっている短冊に気づいた。
これがおそらく最後の一枚なんだろう。
遠慮する必要はないし、短冊なんて元々人に見られることが前提なんだから、それを抜き取る。そこには意外なことが書かれていた。

 

 

「千庭が立派な医者になれますように。」

 

 

−!!

予想外の願いに思わず一瞬呆けてしまった。
この大馬鹿がそんなことを。
と、日鳥の体がもぞもぞと動いた。
「ふが?」
間抜け面の口元からよだれが一筋つつーと垂れた。
「チバちゃん?俺、寝てた?あ、何だよ、勝手に見んなよなー。」
そう唇を尖らせる。
「何だ?これは。」
「何って……。別にお前のために書いたんじゃねーぜ。立派な医者にって書いてあんだろ。お前、医者になったらドラマに出てくる悪役みてーな冷たい医者になりそうだからな。お前の将来の患者さんたちのために書いたんだよ。優しい医者になれるように。ま、無理だろうけどさ。」
そう毒づく。
「ふん、言ってくれる。頭の中を見てもらいたくなったらいつでも言え。見てやる。直すことは無理かもしれんがな。」

 

素直に礼を言うほどのことをされたわけではない。これぐらいが妥当な返答だろう、そう思って出した結論を言い返した。

 

 

 

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2007-08-02

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