羅夢様からの頂き物SSです♪♪♪

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「ちう」

 

 

 

「おうい、千庭くぅん!!こっちこっちー♪」

呼び出された店の自動ドアをくぐると、杖承さんが大きく手を振る姿が見えた。只でさえ長身の彼が大きな動作で動くと、より目立つ。
突き当たりの席のL字形のソファーには日鳥夫妻と愛息子の姿も見える。
小さな両手で何やら大事そうに抱え込んでいるのは、俺が誕生日に贈ったニャン吉そっくりの縫いぐるみだった。
どうやら気に入ってくれているらしい。
立井の足元には本物のニャン吉も居た。
どうりでここに呼ばれたはずだ。
最近オープンしたばかりのペットと子連れがOKという話題のカフェテリアだった。

 

着替える時間もなかったためスーツの上に白衣、胸ポケットに聴診器、首から身分証を下げているといういささか不似合いな格好で、杖承さんの隣に腰を下ろす。

「ちーちゃん。」
小さな口元から、聞きなれない単語が飛び出す。
一瞬、何のことを言っているのか分からなかった。
「ちーちゃん、あしょぼ。」
「チバちゃんって言ってるのよ。パパの真似っ子なの。」
立井が説明した。
成る程。合点が言った。
しかし随分と間の抜けた愛称を付けられたものだ。
だからちゃん付けはするなとあれほど言ったんだ。
「お仕事の調子はどう?」
カプチーノのカップを置いて立井が聞いてきた。
つまらない挨拶だと思ったが、よく考えれば社交辞令も知らない旦那よりは幾分かマシか。
「ふん、いいに決まっているだろう。外科医としての腕前はいいと自負しているし、俺は体調や仕事のペースを崩すほど馬鹿じゃない。」そう言い返す。
「何だよ、お前。俺のカミさんがせっかく気ィ使ってんのにその言い草。可愛くねえ。」日鳥が唇を尖らせた。
「なら良かったわ。忙しいところ呼び出しちゃって悪かったかなって思ってたもの。」
「今日だけは特別だ。次からは断る。」
「まあまあ千庭君。無理言って呼び出したのも、千庭君誘おうって提案したのも僕なんだから。本当は渋谷でもぶらぶらするつもりだったんだけどねえ、お天気はいいし、日鳥くんの可愛い自慢の息子、たくさんの人に見せびらかしたくなっちゃって。気が付いたら横浜まで来ちゃったんだよー。」
杖承さんが笑った。
その顔に一瞬違和感を感じ、ああ喫煙していないのだと気づいた。
この人は日鳥の息子のために、あれほど好きだったタバコを本当に辞めたのだ。

 

と、日鳥の息子が座っていたソファーから自力で降りるのが見えた。
「にゃー。」
よろめきながら床で毛づくろいをしていたニャン吉に声を掛けて近づき背中を撫でる。
「いーこ、いーこ。」
「歩くようになったか。」
「ええ。よちよち歩きだけじゃなくって、言葉も大分覚えてきたのよ。」
「じゃあ父親よりは賢いんだな。」
俺の言葉に当の父親が幾分かムッとするのが見えた。
「でもね、ちょっと困った遊びも覚えちゃったりして。」
「困った遊び?」
「退屈してるみたいだから、多分そろそろ始めるわ。」
立井が意味あり気に笑う。
「にゃあ、ちう。」
日鳥の小さな生き写しは、そうニャン吉に声を掛け、半ば強引に自分の方へと向き直らせると、その艶やかな漆黒の毛並みに口づけた。
「いたずらしたり、迷惑掛けてるわけじゃないから今は放っておいてるけど、幼稚園に行く頃には、やめさせないとね。」
そう立井が言っている間に、いたずら盛りがとことこと母親の足元へと歩み寄ってきた。
「まぁま、ちう。」
「はいはい。」
立井が笑いながら、少し斜めに身を傾け、床に座り込んでいる愛息子を自分の膝の上へと抱き上げる。
「まぁま、しゅき。」
そう言って思い切り伸びをすると、立井の頬に今しがたニャン吉にしたのと同じ行為を繰り返したた。
「な?この歳ですでにキス魔なんだぜ?すっげーガキだよな。」
日鳥が大笑いをする。
「どこでそんなこと覚えてきたんだ、お前?」
からかいながら息子の頬を指で突く。
「あぷ。」
「私に似たのかしら?」
立井が意味深な言葉を発した。その言葉に日鳥が年甲斐もなく顔を赤くする。
そういえばいつだったか、この大馬鹿が「初めてのキスは縫からだった。」とか、そんな聞いてもいないことを惚気ていた気がする。

「ぱぁぱ、ちう。」
立井の膝の上でいたずら小僧が手を伸ばす。
「ん?そっかぁ。よーし。うーん。」
そう言って日鳥がふざけて唇を突き出す。
父親になっても精神年齢は低いままだ。
「ひゃっ!!」
まだ離乳食になって間もない乳児が、驚いた顔を見せた。
「やん。」
しかめっつらで日鳥のあご先を手で押す。
唇は嫌らしい。
こんな乳児でも意思表示をするのだとある種の感銘を受けた。
「ちぇっ、何だよお前ー。じゃあいいや、ほっぺたで。ほら。」
そう言ってむくれた父親の頬にも、自我の芽生えたばかりの生き物が自分の唇を押し当てた。
そんな父親の足の上を這って乗り越えると、日鳥の息子は杖承さんの腕をしっかと押さえつかまり立ちをした。
「じぃじ、ちう。」
「うん?僕にもしてくれるのかい?よぉし、そらっ!!」
杖承さんが、実の孫代わりの両脇の下へとその武骨な手を滑らせ、やや乱暴に抱き上げる。
「きゃっ♪きゃっ♪」
赤ん坊らしいカン高い声が響いた。
「あーあー♪」
実に嬉しそうにはしゃぐ。
性格も大分父親に似たらしいが、このサイズだと無邪気で可愛くも思えてくる。
「じぃじ、だいしゅき。」
そう言って、笑顔で杖承さんの額、ちょうど傷の辺りへと口付けた。
「じゃ、はい。ちーちゃんにバトンタッチだ。」
杖承さんまでがそうふざけて、日鳥の息子を俺の腕に預ける。
「いや、俺は……。」
断る間もなく、小さな体が膝の上へと座り込んだ。
よく考えてみれば会うのは数度目でも、こうして腕に抱くのは初めてだった。
さすが赤ん坊なだけあって、柔らかい。
新陳代謝がいいのだろう。体温の高さが掌に伝わる。
温かい……。
杖承さんが保護欲に目覚め、可愛がる理由が少しだけ分かった気がした。
「気をつけて。結構力すごいんだから。」
立井が言う。その時だった。
小さな掌が突如俺の眼鏡に振り下ろされるかのようにあたり、ガッと音を立てて落ちた。
「あーうー。」
「ごめんなさい、大丈夫だった?」
「ああ、平気だ。」
膝の上に落ちた眼鏡を、拾い上げようとしたが、日鳥の息子がそれを珍しげに眺めていた。取り上げるのが悪い気がした。
「眼鏡が珍しいのね。」
立井が言う。そういえばこの赤ん坊の周りで眼鏡を掛けているのは、滅多に会わない俺と林だけだ。
どうせ視力制御の眼鏡だ。少しくらい貸してやってても構わない。
そう思った時だった。
「ちーちゃん、ちう。」
日鳥の愛息がそう言った。
「やだこの子ったら。キスするのに眼鏡が邪魔だったの?」

「おーい、そのおじさんは怒らすと怖ぇぞ。とって食われるぜ?」
日鳥夫妻が見合わせて苦笑する。

 

 

次の瞬間だった。

 

「え?」
「きゃっ!」
「ありゃ。」

保護者3人がいっせいに驚きの声を上げるのが聞こえた。
俺も3人以上に驚いたが、声は出なかった。いや、出せなかった。
あの大馬鹿の一粒種の唇が俺の唇を塞いていたからだ。

 

 


「なんだよ、お前。俺とのちゅーは嫌がったくせに。」
日鳥がそう茶々を入れた。
「もう、この子ったら。」
立井が急いで俺の膝の上から息子を引き離す。
「えっとね、多分、千庭君の顔があんまり綺麗だったから、この子もきっと、つい思わず……。」
立井がしどろもどろにフォローを入れる。
「子供のしたことだ。かまわん。」
育児中の母親に下手にストレスを与える趣味はない。

それにそう不快でもなかった。

「俺は気にしてない。怒らなくていい。」

「ちーちゃんも、しゅき。」

日鳥の息子がそう笑った。まだ高校生だった頃の大馬鹿の笑顔によく似ていた。

もっとも、こちらの方が男前で賢そうだが。

 

杖承さんほど可愛がる気は毛頭ないが、次に逢う時は肩車ぐらいしてやってもいい、そんなことを考えた。

 

 


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羅夢様より頂きましたほのぼの未来SSです。
てゅっか、
ち、ちーちゃ…ん!!!!子供の特権ですよ…!!

日鳥Jr.は面食いですな(キッパリ)!見る目がありますよ…!!
羅夢サマ、有難うございました〜♪

2007-08-02

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